4.四万十層群の地質特性について
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1.四万十層群の分布と地層形成の場
仏像構造線三以南の地域は「四万十帯」と呼ばれ(図−1)、堆積岩類・花崗岩類・火山岩類等様々な地層が分布している。これらの地層の中で白亜紀〜古第三紀の堆積岩類は「四万十層群」と呼ばれている。四万十層群は、砂岩・頁岩・チャート等から構成されている。
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図−1 四万十帯の分布と構造線・プレートとの関係(岩盤力学入門1986に加筆)
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四万十帯は仏像構造線と南海トラフとの間の地域にあるため、フィリピン海プレート方向からの力を受け圧縮の場となっている。四万十層群が形成された白亜紀にかけての西南日本lの模式断面を図−2に示す。
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図−2 白亜紀の西南日本の模式断面図(地学ハンドブック1996に加筆)
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四万十帯形成の場は、南海トラフに近い位置にあると想定されており、フィリピン海プレ
ートからの圧縮力を受ける環境にあったと推定されている。
このため、地層は圧縮力による変形作用を受け、レンズ状のレキを含む形態の岩石が形成された(“メランジェ”
Aと呼ばれる)。また、圧縮の場であるため海底地形の変動も受けており、地震に伴って発生する海底地すべりにより形成される、レキを含む形態の岩石も形成された(“オリストストローム”と呼ばれる)。
@仏像構造線:中央構造線の南に位置する構造線(断層)。中央構造線とほぼ平行に九州から関東地方まで分布する。
仏像構造線より南側(太平洋側)の地帯は四万十帯は呼ばれている。
Aメランジェ:メランジェは狭義にはプレート境界部で構造運動(圧縮変形)を受けた岩石に使われるが、オリストスローム
も含めてメランジェ(広義)と呼ぶことも多い。 |
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2.四万十層群の工学的性質
四万十帯が形成された場が圧縮変形を受ける場所であったため、四万十帯の地層は形成時に変形を受け、層状構造を持たないレキを含む形態の岩石が広く認められている。
形成時に変形を受けているため、頁岩やレキ状の岩体は割れ目が発達している場合が多く(開口割れ目以外に、潜在的割れ目も存在する)、掘削等の地形改変に伴って割れ目が開口し(写真−1)、緩みや崩壊が発生する場合も起こりうる。
また、地層の方向が場所によって異なり曲線状になる褶曲構造や、断層がしばしば認められるのも四万十帯の地層の特徴である(図−3、写真−2)。
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写真−1 頁岩および砂岩中の開口割れ目
地山状態では潜在的な割れ目として存在するが、風化及び掘削に伴う応力解放により開口する。開口する方向も、岩種および場所により異なることが多い。

図−3 地層の褶曲構造 写真−2 四万十帯の小断層とくさび状の抜け落ち
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3.四万十層群における地層分布の特徴
堆積岩の場合「層状の構造(例えば、砂岩頁岩互層)」を持っているため、露頭では平行線状の構造が認められる。このため層状構造の方向がわかれば、地層がどの方向に分布するかを予想することは比較的容易である(図−4)。
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図−4 堆積岩における地質構造の推定例(層状構造を持つ場合)
地質踏査による地層の露出状況(走向傾斜)とボーリング(分布深度)により比較的容易に推定できる。
一方、堆積岩には層状構造を持たない場合も存在する。層状構造を持たない場合、写真−3に示すように、頁岩中に砂岩・チャート等がレキ状に入っていることが多い。レキ状の岩体の形態は不規則であることが多く、露頭の一部から全体像を推定することになるため、不確定要素が多く全体像を推定することが困難であることが多い。

写真−3 板状構造を持たない場合の地質構造推定例
(頁岩中に砂岩のレキ状岩体がある場合)
頁岩中の砂岩のレキ形状及び配列から推定する。
四万十層群の地層には層状構造を持たない地層が多く認められるため、地層の分布を知るためには、露頭で頁岩中の砂岩のレキ形状及び配列等の地質構造の特徴を把握し、ボーリング等の調査を加味して推定することとなる。
したがって、地層の大局的な分布や地質構造を推定するこは可能であるが、詳細な分布状況を(レキがどこまで分布し、形態がどう変化するのか等)とらえることが困難であ場合が多く、仮定を設けて推定する部分が生じてしまう。
調査の精度を上げれば(ボーリング本数を増やす等)、仮定する条件範囲を狭めることができるが、形状および潜在割れ目等の不確定要素は必ず残る。施工にあたっては、調査精度と費用対効果とのバランスを考慮し、施工中に隣接法面の状況から修正を加える手法をとることが望ましい。
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